iPhoneが50万円超に跳ね上がる…トランプ関税の犠牲になったアメリカ人がこれから直面する"残酷な未来" | ニコニコニュース
■バリカンを買い、子供たちの髪を切るようになった
「世の中が良くなるとは思えない。本当に思えないよ」
米公共ラジオ放送NPRの取材を受けたダン・フィッチさんは、近日やって来るであろう追加関税による各種値上げに絶望感を示した。インフレですでに止まらない生活苦に、あたかも追い打ちを掛けるような状況だ。
フィッチさんは、西岸オレゴン州ポートランドの退役軍人局に勤める看護師だ。2人の幼い息子を育てる父親でもある。一家はここ数年の物価高に対処するため、できる限りの節約法を実践してきた。昔は年に何度か楽しんでいた家族旅行も、今ではほとんど行かなくなったという。
最近ではついに、3歳と7歳の息子たちの散髪代を削ることにした。フィッチさんはバリカンを買い、自分で子どもたちの髪を切るようになったのだ。
「ああ、次は自分の髪も切り始めるかもしれないね」と言うフィッチさん。「見た目は悪くなるけど、お金の心配が減るなら、なりふり構っていられませんよ」と覚悟を決める。
■世界各国がアメリカを「搾取」していたと主張
家計のやり繰りに頭を捻るのは、フィッチさんだけではない。トランプ政権が次々と打ち出す追加関税により、一度は落ち着いていた米国内のインフレは再燃。物価の急上昇が始まった。
4月3日、トランプ氏はホワイトハウスのローズガーデンで、新たな経済政策を発表した。ほぼすべての輸入品に10%の基本関税を課すほか、国ごとに税率の異なる相互関税を導入する。
米ワシントン・ポスト紙によると、関税措置の対象は世界約60カ国に及ぶ。中国からの輸入品には34%、EU産には20%、日本製には24%の税率がかかる。その後、報復関税を導入しなかった国を対象に90日間の追加関税停止措置を発表しており、迷走が目立つ。
トランプ大統領は、米国経済がこれまで世界各国による「搾取」を受けていたとの自説を披露。今後そのようなことは繰り返されず、この日が米経済にとって「解放の日」になると宣言した。
だが、世界の反応は冷ややかだ。カタールの衛星放送局・アルジャジーラは、「トランプ大統領の貿易戦争で最大の敗者となるのはアメリカの消費者だ」と突き放す。
大規模な関税政策に対し、米経済界からも非難が相次いでいる。米履物流通小売業者協会(FDRA)のマット・プリースト会長兼CEOは、米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、「(関税は)アメリカの家庭に壊滅的な打撃を与えます」と危機感を示した。
「私たちは大統領がもっと、的を絞った対策を採ると期待していたのです。しかし、こうした広範な関税となれば、物価上昇を招き、商品の質は落ち、消費者の信頼を損なうばかりでしょう」とプリースト氏は落胆している。
■休暇中も雇用不安に頭を抱えるアメリカ市民
ある市民は言う。「恐怖と隣り合わせで暮らしています。心配です。日々不安に襲われるんです」
ロサンゼルスで医療請求業務を担当するライアン・レンテリアさんは、米サンフランシスコ・クロニクル紙の取材でこう打ち明けた。春休みでサンフランシスコを訪れた彼だが、その胸中には仕事の不安が渦巻く。
名物のケーブルカーを待ちながら、「前は仕事に安心感があったけれど、今はそれが揺らいでいます」と彼は語る。「会社はいつも、コストを減らそうと躍起です。もし職場の皆がクビにでもなれば、一体どうなってしまうのでしょう」
レンテリアさんの家族には、社会保障や障害給付を受けている人もいる。政府の支援に頼って生活しているが、頼みの綱の社会福祉制度も、いつまで続くか分からない。
家族の危機をひしひしと感じる彼は、抗議デモに参加する予定だ。「このまま彼(トランプ氏)の思い通りにさせるわけにはいかない。そうなれば完全に混乱してしまう」と訴える。
■ゲーム機は7000円、クルマは102万円の値上げに
生活不安を抱えているのは、決してレンテリアさんだけではない。暮らしへの影響の大きさを、数字が物語る。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のポッドキャスト番組で、データニュース編集者アンソニー・デバロス氏は、関税の家計負担について解説した。
例として、中国産ゲーム機には10%の追加関税が発動するが、ほぼ全額が消費者の購入金額に上乗せされる。例えば500ドルのゲーム機本体なら、約48ドルの値上がりにつながるとデバロス氏は述べた。これまでなら約7万3000円で買えたゲーム機が、内容が拡充されたわけでもないのに、関税の影響で約8万円になる計算だ。
より深刻なのは自動車分野への影響だ。同番組内で経済調査会社ムーディーズは、メキシコ製自動車への25%関税のうち、約70%が買い手の負担になると試算している。一例として、これまで4万ドル(約581万円。丸め誤差あり)で買えたSUVは、4万7000ドル(約682万円)となる計算だ。同じSUVだが、米消費者は新たに7000ドル(約102万円)の上げ幅を負担する。
■米国製造ならiPhoneは最大51万円に高騰
値上げはiPhoneにも及ぶとの懸念がある。iPhoneの製造は主に台湾のホンハイ(鴻海精密工業)が担っているが、追加関税の影響を回避するには、製造拠点を米国内に移設せざるを得ない。
だが、ウェドブッシュ・セキュリティーズのグローバル・テクノロジー・リサーチ責任者ダン・アイブス氏はCNNに対し、iPhoneを米国内で製造した場合、現在の約1000ドル(約15万円)から3500ドル(約51万円)程度まで価格が跳ね上がる可能性があると警告した。
理由として、アジアに存在する複雑な生産エコシステムを米国内で再構築するには、膨大なコストがかかる。アイブス氏によれば、アップルがサプライチェーンのわずか10%をアメリカに移転するだけでも、約300億ドル(約4兆円)のコストと3年の期間を要するという。
実際の上げ幅については予測が分かれている。ローゼンブラット・セキュリティーズは、アップルが関税コストの全額を消費者に転嫁した場合、iPhoneの価格は43%上昇する可能性があるとの見方を示している。またカウンターポイント・リサーチのニール・シャー副社長は、約30%の上げ幅になると予測した。
こうしたことから製造拠点の移設は現実的でないとも取れるが、そうなれば追加関税の影響は避けられず、いずれにせよiPhoneの販売価格への影響は必至だ。
ほか、生活必需品への影響は幅広い。ワシントン・ポスト紙は、アメリカの輸入品への依存度に注目している。例として靴類はほぼ全て、トマトでは9割が、海外からの輸入品だという。こうした商品は関税の影響をまともに受けることになると同紙は述べ、生活への影響は甚大であると指摘している。
関税発表を受け、消費者の財布の紐は明らかに堅くなった。NPRは、警戒心が貯蓄行動に表れていると指摘する。3月の貯蓄率は、8カ月ぶりに4.6%まで高まった。アメリカ国民がトランプ氏の関税方針に不安を感じていることは明らかだ、と同局はみる。
■トランプ支持層、値上げは「短期的な痛み」と受け入れる
相次ぐ物価上昇に、トランプ氏率いる共和党の支持者たちはどう反応したか。懸念の声も上がっているものの、支持者の多くは関税が「短期的な痛み」にすぎず、長期的な利益を実現するための「必要な犠牲」と捉えているようだ。
カリフォルニア州ハンティントンビーチでは、トランプ大統領の小さな胸像が市議会議場に置かれ、「アメリカを再び偉大に」というバナーが家々や港のボートに誇らしげに掲げられている。共和党支持者の多いこの地域を、ロサンゼルス・タイムズ紙が取材した。
「最初は痛むかもしれないけど、それでも私たちの国は大きな問題を抱えていると思いますから」
ハンティントンビーチ在住のメアリーさんは、同紙に語る。彼女はトランプ氏の熱心な支持者であり、関税によるインフレ加速もやむを得ないと捉えている人々の一人だ。「体重を減らすには、少し努力が必要。財政的な窮地から抜け出すにも、少しの犠牲が必要ですね」と彼女は言う。
同じくハンティントンビーチに住む76歳のデニス・マッキーオンさんも、関税は短期的な犠牲であり、長期的な利益とトレードオフの関係(どちらかを妥協せざるを得ない状態)にあるとみている。「価格は短期間、少し上がるけど、長期的には全体的に良くなると思いますね」と彼は語る。
「他の国々が私たちに関税をかけてきたのだから、これで物事が平等になるというものです。アメリカ製品が他国でもっと売れるようになれば、国内の企業にとっても良いことでしょう」とマッキーオンさんは述べた。
■関税は米経済に不利なのに…共和党支持者が抱える矛盾
だが、彼の視点には矛盾がある。アメリカが他国に対して関税を強化しても、他国でアメリカ製品が売れるようにはならない。むしろ、関税強化に対して他国が報復関税を導入すれば、アメリカ製品は海外市場で売れにくくなる。
実際のところ、カナダやメキシコ、中国などはすでに報復関税を発表しており、これによってアメリカの輸出品、特に農産物などが打撃を受ける可能性がある。貿易戦争は双方向に影響を及ぼす性質があるため、アメリカの一方的な関税強化によって米国製品が海外で売れやすくなるという論理は、経済学的に成立しない。
しかし、共和党支持者のあいだでは、関税が国内産業の成長につながるという信念が根強い。関税は他国への罰金のようなものだと、表層的に捉える向きが多いのかもしれない。
ハンティントンビーチのメアリーさんも、ロサンゼルス・タイムズ紙に、関税が「アメリカ製品を買い、アメリカの産業を支援する動機づけになる」との考えを披露している。
AP通信とシカゴ大学の全米世論調査センター(NORC)が実施した調査によると、共和党支持者の72%が、トランプ氏の貿易政策を支持している。多くの支持者がトランプ氏の「アメリカ・ファースト」の理念に共感していることを示している、とロサンゼルス・タイムズ紙はみる。
■「スーパーで買える食品が減った」2児の母が漏らした不安
一方、広くアメリカ国内を見渡せば、すでにインフレと雇用への不安が充満している。
英BBCの報道によると、関税の影響で米国国内で値上がりが懸念される商品は幅広い。自動車をはじめ、ビールやウイスキー、テキーラなどの酒類、住宅建材、メープルシロップ、燃料、アボカドなどが挙げられる。カナダ産メープルシロップは世界の生産量の75%を占めており、価格上昇は避けられない。
フロリダ州タンパの研究所コーディネーター、キャシー・マークラーさんはNPRに、「予算内でやりくりしようとしても、それがとても難しくなっています」と語った。
研究所で働きながら2人の子どもを育てるマークラーさんの買い物リストは、以前よりずいぶんと短くなったという。「同じ金額を払っているのに、スーパーで買える食料品の量が減っています」と肩を落とす。
一方、アルジャジーラは、アメリカの主な貿易相手国の一つである日本も、この関税政策の影響から逃れられないとみる。日本からの輸出品には24%の関税がかかり、日本企業のアメリカ市場での競争力が弱まる恐れがある。また、世界的にサプライチェーンに混乱が生じ、日本経済も影響は波及するだろうとの分析だ。
世界各国がこれまで不平等な貿易を行い、アメリカを経済的に攻撃してきたと見立てるトランプ政権。報復として、関税強化による「アメリカ解放の日」を謳う。
だが、この政策は他ならぬアメリカ国民の生活を脅かしている状況だ。世界経済の混乱も危惧されており、トランプ氏の政治手腕に世界的に疑念の目が向けられている。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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改行
フロッピーディスクドライブ付きのappleが、当時の日本円で50万円以上だったはずだから、その時代に戻ったような価格。今のiPhoneは一種のブランド商品みたいなものだから、その価格帯でも売れるのかもしれない。 |