「解体デモ」が全国に拡大中! 財務省がここまで嫌われる"本当の理由" | ニコニコニュース

財務省は国の財政や税について分掌する省庁。予算をつかさどる主計局が花形部署といわれる
財務省の前で減税や積極財政を求めるデモが4ヵ月以上続いており、全国的に拡大している。デモの主張はどこまでが真実で、財務省はどう変わるべきなのか? 識者とマジメに考えた!
【写真】『ザイム真理教』が解体デモに大きな影響を与えた、故・森永卓郎氏
■今のデモには既視感がある
国の財政や税をつかさどる財務省に対して、解体を要求するデモが続いている。
その始まりは昨年12月にさかのぼる。年が明けた1月にはSNSが第二の舞台となり、デモを行なう団体が急増。2月下旬には、YouTuber・ヒカル氏をはじめとした著名インフルエンサーがデモの様子を拡散したことで弾みがついた。
財務省解体デモを始めた主催者は、以前から政府や財務省の財政運営を批判してきた評論家や、新型コロナ対策などに関連して政府を批判する政治団体など。
インフレで人々の生活が苦しくなった元凶は、政府を操って財政出動や減税を渋らせている財務省だと主張し、政府と省庁が一体となって進める財政再建路線の転換や、消費税の廃止を要求している。
最近では東京・霞が関の財務省前だけでなく地方庁舎にもデモが拡大し、登庁する一般職員を動画撮影してSNSに上げるなど、エスカレートした行動も見られる。
官僚として労働省(現厚生労働省)に勤めたキャリアを持ち、公務員バッシングや財務省についての著書がある神戸学院大学の中野雅至教授は、「今起こっている財務省解体デモには既視感がある」と語る。
「世の中が不況になって皆がギスギスしてくると、その矛先は決まって財務省に向いてきました。財務省のことは誰もかばわないし、財務省自身も反論しませんから。とはいえ、彼らをデモに駆り立てた背景は、以前よりも厳しさを増していると感じます」
今回のデモが過去のそれと異なる最大のポイントは、より国民の生活や意識が追い詰められている点にあるという。
「1990年代以降、たびたび行なわれてきた財務省バッシングは、その権力で政治家や規制を操る財務省を変えれば、日本も変わるという希望が込められていました。
それが最近のデモだと、単に日頃のうっぷんをぶつけてカネを回せと迫るだけ。構想やビジョンがまるで見えません。悲しくも、ここに今の日本国民を覆っている閉塞感が表れているように感じます」
■なぜ今、デモが盛り上がっているのか
長年財務官僚を取材し続けてきたジャーナリストの山村明義氏は、今回のデモにも評価できる部分はあると語る。
「今回のデモが解体後のビジョンを提示できていないのは確かです。ただし過去の財務省バッシングとは、参加者が理論武装をしている点が明らかに異なります。
経済評論家の著書や発信を受けて、『財政再建路線の放棄』や『消費税撤廃』といった政策論で攻めている。90年代の、ある意味素朴な感情を乗せたバッシングとは違い、彼らなりのロジックを持っています」
デモの推進力が、かつての反権力から生活路線に変わったこと。この点は、中野氏、山村氏双方の見解に共通しているようだ。
すると気になるのは、「なぜ今、財務省解体を求めるのか」ということ。その要因は、昨年の総選挙で躍進した国民民主党が「減税によって国民の手取りを増やす」という主張で注目を集めていることや、「103万円の壁」引き上げが遅々として進まないことも大きいだろう。
その邪魔をしているのが財務省だという「財務省悪玉論」は時代を超えて非常に根強い。
「また歴史的に見ても、政権基盤が弱体化すると、実際に財務官僚は政治家への働きかけを強めます。石破政権の支持率が低下していることも、今回のデモと無関係ではないはずです」(山村氏)
それから今回のデモは、経済評論家の故・森永卓郎氏が著書を通じて広めた「ザイム真理教」というフレーズの影響も大きい。財務省は財政再建路線をまるで宗教の教義のように仰ぎ、政治家やマスメディアへの布教に全力を注いできたという説だ。
1月28日にがんで亡くなった、経済評論家の森永卓郎氏。2023年に出版した『ザイム真理教』の内容は解体デモに大きな影響を与えた
この真偽については実際のところ、諸説入り乱れている。"宗教"であるかはさておき、経済学や財政学の知見では財政再建が必要だといわれているものの、それが実現されていない日本で生活への影響をさほど感じないのも事実だからだ。
それはたとえるなら、いずれ来る大地震に備えることは当然の責任だという意見(財政再建路線)と、来る来る詐欺は聞き飽きたとする意見(積極財政路線)の対立のようなもの。その真偽を確かめるには未来を待つしかない以上、今決着をつけることができないのだ。
■本当にデモをすべき相手
この点を踏まえつつ、デモの主張について、まずは山村氏の見解から聞いていこう。
「健全財政の確保が財務省の使命として、法律に定められていることは確か。法律こそが役人の行動規範である以上、彼らが1200兆円もの〝借金〟を放置できるはずもありません。
とはいえ、財政再建のためなら日本経済を悪化させてもいいと法律に書いてあるわけでもない。この30年、経済成長率はいっこうに伸びず、われわれの賃金だって他国に比べればまったく上がらなかった理由のひとつが、財政再建路線であることは間違いありません」
一方中野氏は、異なる観点からデモを評価した。
「財務省は財政再建すら真面目にやっていない、というのが私の意見です。デモの人たちは財務省や官僚を悪魔みたいに言いますが、彼らがそんなに強いなら赤字国債が積み上がるはずがない。
ただ、裏で政治家を説得したりつるんだりしているから信頼されないわけです。権力にこびず役人らしくやっていれば、デモなんか起きません。デモの存在が、財務省の不誠実をあぶり出していると思います」
ただし中野氏は、デモを行なう相手は財務省ではないのでは、と言う。
「大まかに国の経済を眺めると、家計・企業・政府に分けることができます。海外とのやりとりを除けば、お金はこの3者の中でぐるぐる回っているのですが、ご承知のように政府は毎年大赤字。
これに対して、企業は大黒字です。つまり、お金をため込んでいる大企業が、それを有効に使ってくれないことが問題なんです。デモをするなら大企業に、ということになりますが、企業がデモの言うことを聞く理由はないので......難しいですね」
果たして財務官僚の行動原理はどのようなものか。大蔵省(現財務省)官僚から慶應義塾大学大学院教授に転じた小幡績氏は、彼らの使命感について語ってくれた。
「財務省が財政再建を言うのは、結局のところ、正義感だと思います。国民が嫌がっても国にとって正しいことは誰かが言わないといけないし、それは自分たちであると。
裏を返せば、財務省は安易なポピュリズム、つまり国民にこびることが大嫌いだということ。こんなエリート主義は傲慢に映って当たり前で、それに対する反発が財務省解体デモなんだと思います」
ただ少しだけ財務省を擁護すると、と小幡氏は続ける。財務省は「大局を見て動く」という、損な役回りをさせられているというのだ。
「国の構造として、国民はみんな自分が幸せになるために自由に行動できる。そうすると、全体を見て利害のバランスを調整する存在が必要になります。
自由にやっている人に向かって大局を語れば、どうしたって『上から目線』と取られてしまうんですよ。これがこのご時世にはものすごく嫌われますよね。まあそれが仕事なんだから仕方ないですけど」
ここまで詳細にたどってきて、どうやら財務省とデモ勢が相対する一点は、財政再建主義であることが見えてきた。先に見たように、すれ違いの原因は赤字財政が続くことによる実害を体感しづらい点にある。しかし小幡氏は、赤字財政は国益を損ねていたと断じる。
「財政再建をせず赤字財政を続けてきて、1200兆円の借金が積み上がりましたよね。しかし好景気は実現しないまま。つまりこれって、政府に1200兆円渡して使わせたのに、経済成長に失敗したってことなんです。
これは思考実験になりますが、仮にこの1200兆円をうまく運用する、例えば米国に貸し出したら、今なら金利が5%つくわけです。毎年60兆円儲かる。財政赤字を野放図に積み上げたことで、われわれが60兆円儲ける機会を逸しているのに等しいんですよ」
■デモを前に財務官僚は何思う
財務省解体デモについて、しばしば陰謀論に似ているといわれることがある。しかし山村氏は、財務省叩きを陰謀論と片づけることは必ずしも正しくないと考えている。
「財務省が日本最強の官庁であることは事実です。まず、財務省抜きでは予算が組めません。それに日頃から財務官僚と接していると、彼らの政策立案能力や情報収集力、政治家との折衝能力はすさまじいものがあると感じます。
政策決定において財務省が極めて重要な役割を果たしている以上、良しあしは別として、財務省が批判に値しない小さな存在であるとはとうてい言えません」
ところが、昔を知る小幡氏によると、これでも財務省が弱体化していることは間違いないという。
「かつて、大蔵省には他の省庁に予算をつける候補案件をいくらでも出させて、審査をする権限がありました。このときはまさに最強官庁というにふさわしい存在でしたが、1980年代半ばから30年にわたって続いた政治主導・官邸主導の流れで、予算や政策の決定権を財務省は完全に失うことに。
今でもプライドはやたら高いけれども、ほぼ政治の言うことを実行するという形になっています」
給料は民間のエリート会社員よりずっと低く、残業続きでワークライフバランスは最悪。その上やりがいは減り、志望者も減少の一途をたどっている。これもまた、紛れもない財務官僚の実態なのだ。
ところで、デモを前に財務官僚は何を思うのだろうか? 山村氏はつい最近も、財務官僚に会う機会があったという。
「多少やりづらくなってると口では言うものの、何も変わっていなかったですね。デモにはすっかり慣れていますし、彼らは心身とも非常にタフです。
というか、今回のデモが何をやってるのかすらよくわかっていない感じだったので、国民のほうを見ているのかと心配になりました。先日なんて、ある財務官僚から『米の値段が少々高くて何が悪いの』と言われ、あぜんとしました。
彼は『今は物価高の時代になったんだから、そりゃあ米の値段も上がりますよ』と言う。経済学の常識と国民の心情の乖離が理解できていない。
これは98年の大蔵省接待問題に端を発していると思います。以降、民間との接待交際が禁じられ、財務官僚が国民の生の声を聴く機会が激減しました。こうして官僚の情報収集力が落ちたのも、財務省解体デモの一因となっていると思います」
1998年に大蔵省職員らが銀行からノーパンしゃぶしゃぶ店で接待を受けていたことが発覚。三塚博大蔵大臣(写真)が引責辞任した
■政治家との共犯関係を断て!
最後に、財務省への注文を3人に聞いた。まずは山村氏から。
「財務省悪玉論の本質は、財務省が政治の陰に隠れてコソコソやっていることに尽きます。今財務省に必要なのは、自分たちが政治的な存在であることを自覚して、国民の前に姿を現し、対話すること。
北欧では、官庁の担当者が直接国民に向かって説明をすることは珍しくありません。また米国では、市民との対話集会に役人が参加することもある。同じことが日本でできないはずはないと思います」
続いて、中野氏からの提言を伺おう。
「財務省に必要なのは、国民に対して本当に透明な数字を出すことです。財政赤字や国の資産、国債の残高と利払い費などなど、全部つまびらかに出して、自分たちは政治的ではなく中立な存在だと明言しないと。
さもなければ、財務省とは別に歳入と歳出だけを公明正大につかさどる、中立の機関を新たにつくらないといけなくなる。これは財務省にとって最悪のシナリオでしょうから、その前に変わってほしいですね」
言うまでもなく、政治の責任も重大だ。小幡氏によれば、政治がバラまくと決めれば、財務省には抵抗する力はない。そして増税する際の憎まれ役は常に、財務省に押しつけられるという。
「結局、官邸も与党も野党もみんな、政策のアイデアが枯渇しています。だから国民のご機嫌取りしかできなくて、減税や金配りしか言えない。政治家がポピュリズム的な政策を打ち出すから、財務省の反ポピュリズム的な主張がより際立ってしまうわけです」
中野氏も、政治家がだらしないという点で小幡氏に同調する。
「政治家は大盤振る舞いをして国民の歓心を買うのは好きですが、限られた予算の配分という、痛みを伴う作業はやりたがりません。だから財政は常に膨張しがちで、これは政治家の責任です。
ここで政治家は財務省を利用します。予算配分は押しつけ、財務省が仮想敵だと言って国民のうっぷんも押しつける。ひどい話ですが、そこに貸し借りが生まれ、財務省の隠然たる権力が発生する余地がある。この共犯関係をやめさせないといけません」
デモの火はやむことなく、4月以降も全国各地で計画されている。主張には極端な単純化や荒唐無稽な内容も多く、すべてをうのみにするわけにはいかないが、そこまで人々を動かす何かがあることもまた事実。財務省や政治家は旧習を改めるターニングポイントに立っている。
●慶應義塾大学大学院教授・小幡績(おばた・せき)
東京大学経済学部を首席で卒業したのち、大蔵省(現財務省)入省。1999年に退職し、一橋大学などを経て2003年に慶應義塾大学大学院准教授、2023年に現職。著書に『アフターバブル 近代資本主義は延命できるか』(東洋経済新報社)など
●神戸学院大学教授・中野雅至(なかの・まさし)
1990年、労働省(現厚生労働省)入省。2014年4月から神戸学院大学で教壇に立つ。著書に『財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税』(朝日新書)、『公務員バッシングの研究 Sacrifice〈生け贄〉としての官』(明石書店)などがある
●ジャーナリスト・山村明義(やまむら・あきよし)
金融出版社社員から作家・ジャーナリストに。情報会社である株式会社NAKATORIを主宰。著書に『財務省人事が日本を決める』(徳間書店)などがある
取材・文/日野秀規 写真/時事通信社

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疲ぃ
「今回のデモ参加者はバカ」って結論ありきで書いてるなあ。これまでのデモと違ってロジックがあるというなら、逆にかつてなく解体後のビジョンがしっかりしているってことになるはずでしょ。財務省が反ポピュリズムで大局で見た正義を断行しようとしているなら、企業の大黒字だの物価高だの、将来に渡って国民を苦しめる諸問題から目を背けられるわけないでしょ。 |
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疲ぃ
だいたい、歳入庁と歳出庁の創設が制度として公明正大だってわかっているなら「反ポピュリズム」で「正義感」が強い財務官僚が率先して支持しない理由が無いでしょう。財務省に政治を変える力が無いというならなおさら、無用な権力にしがみつく理由も無いんだから。 |
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kikori
なんというかこんな知性しか持ち合わせてないからお前らは金が稼げないという感想しか出ない。デモやる時間があれば働けば良いと思うのだが。年々増える膨大な社会保障費を見て税金下げようぜなんて気分は起きんわ。 |